当初「価格の歪みを利用すれば、手軽に商売ができる」という本を書くつもりでした。ところが、一章書き終えたところで「もっと個人の買い物全般をテーマにしたい」という思いが強くなりました。「価格という側面から見た人生論にしたほうが面白いのではないか」と思い、出来上がったのがこの作品です。そうと決めたらドンドン筆が進み「自分が結婚を逃したエピソード」まで暴露する羽目になってしまいました。
●サブカルチャーが大好き
もともと、サブカルチャー、特に映画や音楽が大好きでした。中高生のころは、まんだらけに入り浸って宝島のバックナンバーを読み漁っていました。こういう世界は、小説ともつながっていますから、小説もずいぶん読みました。その時に、世の中をちょっと斜めに見る視点を手に入れたように思います。私の本が、ビジネス書でありながら、文芸書とのハイブリットのような本になっているのもそのせいです。実は、この本にも仕掛けがしてあります。第五章「商売人間失格」が、太宰治の『人間失格』のパロディになっているのです。文章はそのままで、単語だけを差し替えて、一章を成り立たせています。
●自己中心ではダメ
サブカルチャー好きとはいえ、ヒッピーカルチャーとは一線を画しているつもりです。「自分の好きなことだけやっていればいい」という自己中心的なスタンスではいけないと思っています。自分が楽しいだけでなく、読者を楽しませるサービス精神がないとダメだという意識を持っています。だから「書きたいものでなく、人が読みたくなるようなもの」を書くようにしています。そのためにも、もともと好きでたくさん読んでいたビジネス書を、さらにたくさん読むようにしています。
●勉強会がネタ元になっている
かなり立ち入った話を書いているせいか「取材先はどうやって見つけるのか」とか「取材の時間はいつ取るのか」ということを聞かれます。実は、ちゃんとネタ元があるのです。自分で、調達や購買に関する勉強会を主宰しているのです。そこにはたくさんの業界の方が集まります。そこで、勉強しながら、ちゃっかり取材させてもらっています。
●本を書く時は名場面から
本を書く時に心がけていることがあります。まず、伝えたいことからでなく、名場面から考えるようにしています。普通の書き方は逆だと思います。私は、最初に描きたい場面、たとえば「女性に振られたシーンが頭に浮かびます。その後で、その場面にぴったりくる、たとえばコストの話を考えます。もう一つ心がけていることとして、各章に一つは山場を作るようにしています。ビジネス書で盛り上がりまで考える人はあまりいないと思います。むしろ言いたいことがたくさんあって、それを表現することに先にあるはずです。私は、あえてそんな盛り上がりを考えてやっています。
●ビジネス小説に挑戦したい
次は「こうやったら儲かるはずだったのに、実際は儲からなかった」ということがテーマの本を出します。さらに小説に挑戦したいという気持ちがあります。理想は、橘玲先生です。「ゴミ投資家シリーズ」を成功させ、そのあと『マネーロンダリング』『永遠の旅行者』『悪夢博士』という物語に挑戦されました。物語の中でも、しっかりとたとえば「インデックス投資をしろ」というメッセージを伝えています。実際に、出版社からもオファーをいただいています。軸足をずらさず、見せ方を変えながら読者さんを飽きさせない工夫は難しいと思います。でも、ぜひ挑戦してみたいと思います。
■藤井のコメント
本書は、価格のカラクリがよくわかるユニークな本です。それ以上にビジネス書として、文章の出来栄えが、文芸書並みにすばらしいです。また、インタビューでは、先生と本の話が尽きませんでした。大変たくさんの、ビジネス書にお詳しいのが印象的でした。良い文章を書いている人は、たくさん読んでいることなのだと思いました。さらに、定期的な勉強会を開催するなど、ネタ元をしっかり持っていることが印象的でした。