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インタビュー

著者に訊けビジネス選書家 藤井孝一の直撃インタビュー

ビジネス書のベストセラー著者に、著者インタビューで定評のある藤井が直撃体当たりインタビューをしてきます。本に書けなかったメイキングから、執筆の苦労話、読者への熱いメッセージまで、著者から引き出します。

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2007/08/01
戦わない経営 ‐ 浜口隆則さん

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今回は『戦わない経営(かんき出版)』の著者、浜口隆則氏にお話を伺います。本書では、ライバル会社とも、顧客とも、一切、戦わないことを目指すという独自の経営論を紹介。中小企業の新しい経営方法を紹介した1冊です。
浜口隆則(はまぐち・たかのり) さん

会計事務所、経営コンサルティング会社を経て、大好きな起業家を支援する仕事をするために20代で起業。株式会社ビジネスバンクを創業。起業家向けオフィス賃貸の「オープンオフィス」はレンタルオフィスという新しい業界を生んだリーディングカンパニー。その他に、起業専門会計事務所、ベンチャーキャピタル会社、起業家教育事業など、起業支援サービスを提供する複数の会社を所有するビジネスオーナー。

●現在のお仕事をお教え下さい。

浜口:起業の専門家として、日本の開業率を10%に引き上げるために、起業家向けのレンタルオフィス、会計、ベンチャーキャピタル、教育など、多方面から起業家を支援するサービスを行っています。

●本書は、もともとはお客さんへのクリスマスプレゼントだったとお聞きしましたが・・・・・。

浜口:そうです。私たちの会社の創業10周年を記念して、何かお客さんに感謝の気持ちを表したい。そんな思いから生まれた手作りのプレゼント本です。
当初は自費で1000冊刷ったのですが、「友人にプレゼントしたい」という声をたくさん頂き、すぐに足りなくなってしまって・・・・・。刷って配って、刷って配って・・・・・・を繰り返し、結局、3000冊配りましたね。プレゼント本倒産しちゃうかなと思いました(笑)。
そんなとき、出版社さんから声がかかって、商業出版することになったんです。本書を読まれた多くの方から「ありがとう」と感謝され、「戦わない経営」という世界観が受け入れられたことを大変うれしく思っています。

●本書を書く上でご苦労された点は?

浜口:実は、一切、「戦略」用語を使いたくなかったんです。でも、戦略という言葉を使わないと、何を言いたいのか、伝わりにくい。やむをえず、「戦略」用語でも使った部分があります。そういう点からも、この本を書いて、経営と戦うということが、いかに密接であるかを再確認させられました。

●そうですね。ビジネスというと、どうしても戦うというイメージがあります。そのようななかで、ライバル会社とも、お客さんとも、下請けの会社とも、戦わない経営論というのは、新しい世界観ですよね。浜口さんは、最初から「戦わない経営」を実践されてきたのでしょうか。

浜口:はい、創業時から、いろんな局面で戦いを避ける経営を行ってきました。でも、戦わない経営論に自信があったわけではありません。
ビジネス=戦うものであるという社会の常識が強固で、私たちもそれに引きずられてしまいそうなこともありました。
創業から5年位が経って、事業が軌道に乗り始めて、ようやく「戦わない経営」でいいんだという自信がついてきました。

●戦わない経営に至るまで、何かきっかけがあったんですか。

浜口:私の父も母も事業をやっていました。そのため、私自身、ずっと「良い経営とは何なのか?」を考え続けてきました。また、前職の会計事務所で多くの社長を見てきました。
その結果、たどり着いたのが、戦わない経営なんです。

●でも、ライバル会社と戦わないと、潰されてしまわないですか。

浜口:私たちの会社がユニークなポジションにいるから、言えることかもしれません。
でも、起業家向けにレンタルオフィスを始めてから、もう10年経ちます。立ち上げた当初は、このビジネスに参入しているのは、私たちだけでした。当時は、ライバル会社はいませんでした。
でも、いまでは、数百ものライバル会社がいます。だからといって、私たちの会社が戦うようになったわけではありません。戦う代わりに、現在の私たちのポジションを深く掘り下げるようにしています。

(続く)

●社長と従業員は利益が一致しないですよね。従業員とも戦わないのでしょうか。

浜口:はい、戦いません。例えば、私はチームのメンバーの給料が毎年上がることを大きな目標の一つにしています。もし上がらなければ、私の責任だと考えています。そうすると、社長は給料を上げるためにメンバーを育てようと頑張ります。結果、社長と社員は運命共同体になることができるんです。
私は創業して10年間、このメンバーとの約束とも言えるものを守り続けているんですよ。いままでは創業期だったため、給料を上げやすかったということもあります。今後はこの約束を守り続けていくのが大変になるかもしれませんね。

●社長として、従業員を育てるために行っていることをお教え下さい。

浜口:わざと会社にいない時間をつくっています。創業から5年目、事業が起業に乗り始めた頃から、少しずつ会社に顔を出さないようにし始めました。昨年は週に3日のペースでしか出社していません。
私が会社に出ないのは、チームのメンバーに自分で判断する力を養ってもらうためです。ある程度まで大きくなると、社長がいない方が社員は育つんです。
でも、一般的に社長は会社にいることが好きなんです。私もそうです。それは社長にとって会社は、自分が認められていること、必要とされていることを実感できる非常に居心地のいい場所だからです。社長は会社にいることで、癒されるんですよ。だから、多くの社長は、会社から離れられないんです。

●会社にいないときは何をしているのでしょうか。

浜口:家で執筆したり、外で人と会ったりしています。常に仕事をしていますね。遊んでいても、人から感謝されることはありません。でも、仕事をすれば、人から感謝されます。だから、私は仕事が一番楽しいんです。仕事以上に深い喜びを与えてくれることなんて、なかなかありませんよ。

●でも、経営者がいないことで、会社の方針がずれてしまうことはありませんか。

浜口:共通の価値観を保つために、創業期から毎朝、朝礼を行っています。また、創業以前からリッツ・カールトンなどのクレドを研究していましたが、それも5年ほど前に形になり、日々、実践しています。また、社内向けのメルマガも毎日発行しています。
社内での基準を明確にしておくと、方針がずれることもなくなりますし、何か起こったとき、迷わずに済みます。たとえば、営業をしていて、値引きすれば、お客さんが買ってくれるかもしれないという状況になったとします。値引きをするかしないか、営業マンは迷います。しかし、あらかじめ我が社は値引きはしないという基準が設けてあると、迷うことはありません。
でも、創業して5年ぐらい、事業が軌道に乗るまでは、自分たちのやっていることが、果たして正しいことなのかどうか不安でした。

●そのほかに、従業員に対して、心がけていることはありますか。

浜口:たいていのベンチャー企業は市場に合わせて、事業を拡大しています。そのため、なかには、いらなくなったタイヤを交換するように、従業員を入れ替える会社もあります。
でも、私はチームのメンバーの成長に合わせて、事業を拡大するようにしています。また、当初はIPOを目指していたのですが、数年前に、IPOしないことに決めました。それは、IPOをしてしまうと、無理な拡大を強いられて、チームマネージメントが殺伐としたものにながちだからです。このような方針のお陰か、創業メンバーが今でも残って活躍しています。

●今後の目標をお教え下さい。

浜口:私たちのゴールは、「日本の開業率を10%に上げる」ことです。そのためには、まずは多くの方に会社を経営することはつらいことではなく、むしろ楽しいものだということを分かってもらうことが大切だと考えています。「起業って、いいな」と思ってもらえる機会を増やしたいですね。
次に、「自分にもできそうだ」と思ってもらうことです。いくら起業が素晴らしいものでも、高嶺の花だったら誰も起業しようと思いませんから。でも、周りに良いお手本が少ないんですよね。だから、隣りの成功者を増やしていくために、私たちの会社でフォローしていきたいです。

●最後に一言、お願いします。

浜口:ビジネスというものをネガティブにとらえている人が多いと思うんです。たとえば、嫌なものだったり、汚いものだったり、戦わないといけないものだったり・・・・・・。社会から、そういうふうに刷り込まれているから仕方がないことかもしれません。
でも、本当は「ビジネス=人の役に立つこと」で、感謝されることなんですね。それを分かって欲しい。そうすると、仕事に対する意欲が自然と湧いてきて、純粋に仕事を楽しめるようになります。
1日の大半の時間が仕事です。仕事が楽しくなれば、毎日がハッピーになりますよ。

本日はありがとうございました。
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主宰者

藤井孝一
藤井孝一
経営コンサルタント
週末起業フォーラム(現・週末起業実践会)発起人・元代表
(株)アンテレクト取締役会長

慶応義塾大学文学部を卒業後、大手金融会社でマーケティングを担当。米国駐在を経て、中小企業と起業家への経営コンサルティング開始する。2002年6月「週末起業フォーラム(現・週末起業実践会)」を設立。この新しい起業スタイルを全国のビジネスパーソンに普及させるべく奔走中。

株式会社アンテレクト

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