HOME > ビジネス選書&サマリー > 無料版・バックナンバー > 隣りの成果主義

ビジネス選書&サマリー

無料版・バックナンバー

解除ご登録

ビジネス選書&サマリーのバックナンバーをご覧いただけます。


f

2005/01/14
隣りの成果主義

隣りの成果主義

日本企業の成果主義導入が本格的に始まったのは1990年代後半だ
った。第一次ブームは1996年以降、先進企業が段階的に導入した。
第二次ブームは2000年、大企業の本格的導入がピークに達した。
その後、導入企業数はいったん減少に転じたものの、2003年以降は
再び増加し続けている。これが第三次ブームだ。このタームはそれ
以前とは少々趣を異にする。若手社員をはじめ、一般社員が成果主
義の対象となっている。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■
■■       ビジネス選書&サマリー

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<読者数 28,000部>━
■隣りの成果主義
■溝上 憲文 (著)/出版社:光文社
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■■
■■  選書サマリー

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

見えそうで見えない"隣りの成果主義"。100社を超える企業に取
材、その過程で見た"失敗事例"を紹介しています。

【1】

日本企業の成果主義導入が本格的に始まったのは1990年代後半だ
った。第一次ブームは1996年以降、先進企業が段階的に導入した。
第二次ブームは2000年、大企業の本格的導入がピークに達した。

その後、導入企業数はいったん減少に転じたものの、2003年以降は
再び増加し続けている。これが第三次ブームだ。このタームはそれ
以前とは少々趣を異にする。若手社員をはじめ、一般社員が成果主
義の対象となっている。

今までの対象は、ほとんどが管理職だった。入社数年にしかならな
い若手クラスは、一人前ではないから、労働組合員だから、といっ
た理由で守られ年功的処遇を受けてきた。

しかし、グローバル競争が熾烈なものとなり、デフレが進むと、企
業は本格的な人件費削減に乗り出すようになる。それが一般社員へ
の成果主義導入につながっていく。

代表的な例が、2003年におこなわれた三菱電機の年功昇給制度の廃
止だ。このほか、日立製作所、ソニー、松下電器産業、日産自動車
など、大手企業が次々と若手に対象を広げ始めた。

【2】

今日では、大企業の例にならう中小企業も増えている。日本企業が
こうした制度を活用する場合、一挙に給与格差をつけるようなドラ
スティックな変革はしないものだ。

「初年度は成果主義の評価は実施するが、給与は従前通りとします」
と宣言する。翌年、評価に応じて段階的に格差をつけ、さらに翌年、
成果主義本来の機能をフル回転させるというやりかただ。

社員にしてみれば、給与に差がつかないうちはそう不満があるわけ
ではない。ところが、歴然とした格差があらわれると「おかしい」
と一気に不満が表出する。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によれば、「評価の
賃金・賞与への反映に対する納得感」について「3年前より低下し
た」とする人は29.9%。「高まった」はわずか9.7%にとどまる。

このままでは、社員の意欲はますます低下するだろう。とはいえ、
筆者ははなから成果主義を否定しているわけではない。むしろ「成
果主義」VS「年功序列」という図式に作為を感じているのだ。

【3】

かつての人事評価制度は、純然たる年功序列によるものではなかっ
た。同期の間で、昇格による給与差が厳然と存在していたのだ。た
だし、成果主義と違う点が2つあった。

第一に、評価期間が5?10年と長かったこと。第二に、出した成果
ではなく、本人の資質・能力を評価していたことだ。

そこには、知識・技能に基づく能力給を導入した「能力主義」も働
いていたが「技能は年を経ることで自然に身につくもの」という考
えから、年功的運用がなされていた。

ところが成果主義では短期間に出した成果が評価の対象となる。そ
うなれば、自然の結果として、家族手当、住宅手当など属人的な手
当ても不要となる。

【4】

人事部はまず、基本給を上げることで、これらを給与から外す。次
に成果に従って基本給そのものも下げていく。

忘れてはならないのは、経営者は固定費を一気に削減できるこの方
法を今後、絶対にやめることはない、という厳しい現実だ。高成長
が見込めない時代だけに、年功により人件費だけが上がり続けるシ
ステムは、もはや廃止せざるをえないのだ。

とはいえ、全員の給与を下げたのでは、モチベーションが低下して
しまう。だから成果主義を導入する。成果主義なら、社員の意欲を
維持しながら、互いの競争心を刺激することができる。

事実、経営者自身が、激しい競争を勝ち抜いて現在のポストを手に
いれた人々だ。そのことを忘れてはならない。

しかし、現実には事態は決して、経営者の思惑どおりには運んでい
ない。富士通の例に見られるように、働く意欲が低下し、職場に大
きな混乱がおこっている企業が少なくないのだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■■
■■ 選書コメント  
■■
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本書は、なかなか見えてこない日本の成果主義の実態を、100社を
超える企業への取材で解明しようとしたものです。取材に基づくだ
けに、日本の成果主義の現実を克明に描き出しています。

以前「成功ルールが変わる!」(PHP研究所)という本を紹介し
ましたが、本書を読むと少なくとも日本のサラリーマンの"成功ル
ール"は、すっかり様変わりしたことがよく分かります。

たとえば、サラリーマンに「評者である上司の心理をついて、誰も
が驚く成果を一本釣りせよ」などというアドバイスは、一昔前のチ
ームワーク重視のサラリーマン社会では考えられなかったことでし
ょう。

雇う側の都合で導入された成果主義ですが、雇われる側はいつも雇
う側よりも立場が弱いことを考えると、もはや後戻りすることはな
いでしょう。誰もが、成果主義の流れに順応せざるを得ないのです。

成果主義に直面したサラリーマンに用意された選択肢は2つです。
一つは、成果主義から逃げること、すなわち会社を辞めることです。
もう一つは会社に残ることです。

会社に残るなら、成果主義を前提にした新しい"成功ルール"を見
つけなければなりません。実はその場合、さらに選択肢があります。
一つは成果主義の中で勝ち組を目指すこと、もう一つは、負け組で
もいいからできるだけ長く居座ることです。

著者は、そのどちらにも著者なりの処方箋を提示しています。そこ
に本書の本当の価値があります。もちろん、辞めるか辞めないか迷
っている人の参考にもなります。

いよいよ成果主義が導入された会社、またはこれから導入されそう
な会社の社員など、すべてのサラリーマンに一読をお勧めしたい一
冊です。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ツイートする FACEBOOK いいね! このエントリーをはてなブックマークに追加

主宰者

藤井孝一
藤井孝一
経営コンサルタント
週末起業フォーラム(現・週末起業実践会)発起人・元代表
(株)アンテレクト取締役会長

慶応義塾大学文学部を卒業後、大手金融会社でマーケティングを担当。米国駐在を経て、中小企業と起業家への経営コンサルティング開始する。2002年6月「週末起業フォーラム(現・週末起業実践会)」を設立。この新しい起業スタイルを全国のビジネスパーソンに普及させるべく奔走中。

株式会社アンテレクト

東京事務所:
〒101-0052
東京都千代田区神田小川町3-10 新駿河台ビル4F
Tel.(03)6273-7950
Fax.(03)6273-7951

企業情報はこちら

著者の方へ

広告掲載についてはこちら

TOP