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2005/01/28
希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く

巷にあふれる国民年金未納のフリーターたちに「なぜ年金を払わな
いのか」と尋ねると「5年後の生活の見通しも立たないのに50年後
の心配などできるわけがない」「俺たちはろくなものを食べていな
いから60歳くらいで死ぬに決まっている」という答えが返ってくる。


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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━<読者数 28,275部>━
■希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く
■山田 昌弘 (著)/出版社:筑摩書房
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■■ 選書サマリー

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将来に希望がもてる人と、将来に絶望している人の分裂、そんな「希
望格差社会」の実像を緻密なデータで描きます。

【1】

巷にあふれる国民年金未納のフリーターたちに「なぜ年金を払わな
いのか」と尋ねると「5年後の生活の見通しも立たないのに50年後
の心配などできるわけがない」「俺たちはろくなものを食べていな
いから60歳くらいで死ぬに決まっている」という答えが返ってくる。

若者たちは今、社会から見放され「使い捨て」にされるのではと怯
えているのだ。経済成長期の日本人は「豊かな生活を築く」という
目標を抱いていた。

実際、人並みの努力をすれば、それは十分に実現可能な夢だった。
男性なら、大学に入れば上場企業ホワイトカラーとして、終身雇用
されることが可能だった。

ところが、今では大学を卒業しても、フリーターにならざるをえな
い若者がいる。また、大企業に入社したところで、倒産や解雇と無
縁ではいられない。

一方、家族関係にも不安要素が生まれている。結婚したくてもでき
ない人が増えているうえに、離婚するカップルも多いからだ。さら
に年金財政の破綻が懸念され、老後、ゆとりのある人生が送れるか
どうかという不安がふくらんでいる。

【2】

将来の不確実性が増していく現在のような状況は「リスク社会到来
時代」と呼ぶことができる。先行きのリスクに対する不安が、日本
全体に覆いかぶさっているのだ。

しかも、戦後ずっと縮小していたさまざまな格差が、拡大に向かい
つつある。一億中流社会は崩壊し、「勝ち組 負け組」の違いが顕
著になってきた。

収入の面から言えば、年功序列が崩れ、能力主義体型賃金が浸透し、
同じ年齢、学歴で、同じ会社に勤めていても、月給やボーナスに差
が生まれている。

このほか、正社員を続けられる人と、一生フリーターですごさなく
てはならない人の格差、親に寄生し、リッチに生きられる人と、自
立して貧乏暮らしを強いられる人の格差なども顕著になっている。

【3】

リスク化、二極化の影響は、生活状況を不安定化させるだけにとど
まらない。人々の社会意識までが変わりつつあるのだ。格差が広が
った社会では「苦労しても報われない」「よりよい生活を求めて努
力しても無駄だ」というあきらめが蔓延する。

希望の喪失により、ヤル気が失われ、リスクに満ちた現実から闘争
しようとする人々が増えるのだ。さらに、未来への不安感、絶望感
を抱く若者も現れるようになる。

ここ数年間のあいだに私がおこなったフリーターへのインタビュ
ー・アンケート調査では「組織に縛られず、好きなことをして楽し
く生活したい」という意識よりも、むしろ「将来への不安に怯えて
いるが、その不安を感じないようにするため、実現可能性のない夢
にすがっている」という意識が浮き彫りになっている。

【4】

これらの変化は一時的な現象ではない。世界史的転換期の一貫とし
て生じている。学者たちの間で、最近、さかんに議論されているの
が「近代社会は、ある時期を過ぎると不安定化する」という説だ。

生活はリスクに満ちたものになり、成功者の影で弱者が世間から弾
かれる。結果、不安や絶望が増大し社会秩序が乱れる。確かに戦後、
安定していた経済、国際社会の枠組みは変わりつつあるようだ。

ソビエト連邦の崩壊、9.11テロ、IT化やネットワーク化。地殻変動
に揺らいでいるのは日本だけではない。ほとんどの先進諸国で、多
かれ少なかれ同じような不安定化が起こっているのだ。

じつをいえば日本人は、過去にもよく似た時期を経験している。江
戸末期の黒船来襲だ。当時、列強各国は植民地化政策を進めており、
大規模な「グローバル化」が起こっていた。

その脅威と不安に直面した日本は見事にこれに適応することで困難
を乗り越えた。21世紀を迎えた現在、新たな環境にうまく対処する
知恵が、社会にも個人にも必要とされているのだ。
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■■ 選書コメント  
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●今週の選書について

本書は日本社会が、自分の将来に希望を持てる人と持てない人に分
裂しつつあることを明らかにします。これを「希望格差社会」と名
付け、様々な社会不安の温床になりつつあると説きます。

著者は東京学芸大学教育学部の教授で、家族社会学・感情社会学が
専門の山田昌弘氏です。かつて社会現象になった「パラサイト・シ
ングル」という言葉を生み出した人でもあります。

だれもが今、社会に対して漠然とした不安を抱いています。しかし
ながら、その不安の正体をだれも明確にできずにいます。本書はそ
の不安の正体を明らかにしようと試みます。

希望の固まりであるべき若者の多くが、希望を持てない社会が明る
い社会であるはずがありません。職を望んでいるのに生涯定職に就
けないことが分かったら、家族を持ちたいのに結婚出来ないことが
わかったら、大きな心の傷になるはずです。

傷を負った人々の心は、様々な社会現象、たとえば現実逃避や自殺、
虐待、家庭崩壊、さらに動機が希薄な犯罪といった形で姿を現しま
す。こうした現象がわれわれを不安に陥れるのです。

このように本書には、われわれが無意識に目を背けようとしている
現実を赤裸々に描きます。読むと暗澹たる気持ちになるかもしれま
せん。しかし本当の暗さは、現象そのものよりもむしろそこに決定
的な対処法が見いだせないことにあります。

かといって、問題に目を背けていても何も変わりません。新しい環
境に適応するにはどうしたらよいか、自分なりの答えを模索しなけ
ればなりません。そのためには、まず現状を正しく知ることです。

社会を覆う不安の正体を明らかにしたい方、これから社会に出る若
い方、そしてご家族にそういう若い方やお子さんがいる親世代の方
に、ぜひ一読いただきたい一冊です。

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主宰者

藤井孝一
藤井孝一
経営コンサルタント
週末起業フォーラム(現・週末起業実践会)発起人・元代表
(株)アンテレクト取締役会長

慶応義塾大学文学部を卒業後、大手金融会社でマーケティングを担当。米国駐在を経て、中小企業と起業家への経営コンサルティング開始する。2002年6月「週末起業フォーラム(現・週末起業実践会)」を設立。この新しい起業スタイルを全国のビジネスパーソンに普及させるべく奔走中。

株式会社アンテレクト

東京事務所:
〒101-0052
東京都千代田区神田小川町3-10 新駿河台ビル4F
Tel.(03)6273-7950
Fax.(03)6273-7951

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